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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)27号 判決

原告

貫井豊

被告

キング工業株式会社

ほか一名

第二 主文

一  被告は連帯して原告に対し金三〇一万二一二二円および内金二七一万二一二二円に対する昭和四六年一月一七日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告と被告らとの、各自の負担とする。

四  右第一項に限り、仮に執行することができる。

第三 事実

一  請求の趣旨

被告らは連帯して原告に対し金一〇〇五万〇九五五円および内金九二七万〇九五五円に対する昭和四六年一月一七日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の原因

(一)  (事故の発生)

原告(大正六年五月二五日生)は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

なお、この際原告はその所有に属する原告車を損壊された。

1  発生時 昭和四三年一〇月二六日午前七時五五分頃

2  発生地 東京都久留米市学園町二丁目十二番先の交差点

3  被告車 普通貨物自動車(セドリツクバン。多摩四む一九八号)

運転者 被告 清水

4  原告車 普通乗用車(ブルーバード。多摩五ゆ六四〇七号)

運転者 原告

被害者 原告

5  態様 被告車と原告軍との各右前部が衝突。

6  傷害部位程度

(病名)

むち打損傷による両側四肢不全麻痺、口部打撲裂創、前胸部打撲。

(治療)

佐々病院に次のとおり入通院した。

<省略>

7  後遺症

頸椎損傷により、神経系統の機能に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができない後遺症を残した。

これは自賠法施行令別表等級の第七級第四号に相当する。

これがため、東京都から、身体障害者福祉法による別表第四級に該当する旨の認定を受け、昭和四六年二月一六日付で身体障害者手帳の交付を受けた。

(二)  (責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(1)  被告会社は、被告車を乗務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(2)  被告会社は、被告清水を使用し、同人が被告会社の乗務を執行中、後記のような過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七一五条一項による責任。

(3)  被告清水は、事故発生につき、次のような過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

即ち、被告清水は被告車を運転して事故発生地たる三差路交差点を東久留米駅方面から西原小学校方面に向け時速約四〇粁で直進中、左側に駐車中の訴外車を避けて先行車に追従して駐車車両の右側を先行車に続いて走行せしめるに際し、前方の注視を厳に行い、対向車の有無と動静等を確認すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り先行車に漫然と追従走行せしめた過失により、対向して来た原告車と正面衝突せしめて本件事故となつた。

(三)  (損害)

1  治療費 金四万〇三七〇円

昭和四四年五月二七日以降昭和四五年八月一八日までの分。

2  付添費 金一九万三五二二円

前記の第二回目の入院一〇一日の内九四日間にわたり原告の妻トヨ子が付添つた。その一日当り金二〇〇〇円宛の金一八万八〇〇〇円となる。昭和四四年四月三日から同年四月六日までの間付添つた家政婦代金五五二二円の賃金を支払つた。

3  入院雑費 金七万二七三三円

4  通院交通費・連絡費 金九七〇〇円

5  原告車の損害 計金二五万八六三〇円

(イ) 修理代 金一五万八六三〇円

(ロ) 代車料 金四万円

予め被告会社の諒承を得て昭和四三年一一月一五日以降同年一二月末まで代車を借りた代金である。

(ハ) 評価損 金六万円

6  慰藉料 金一〇〇万円

前記のとおり入院通院を続け、前記の傷病の併発・再発をくり返し、吐き気、目まい、全身のしびれに四六時中悩まされて来た。

原告は東京都東久留米市立第四小学校の教師として勤務して来ていた。昭和四三年度の東京都教育委員会が実施した公立小学校教頭候補試験を受け、その筆記試験に合格した。その後本件事故に遭遇したけれども、症状が良い時などは、面接試験の準備を心掛けていたけれども、その数日前から症状が悪化し再入院を余儀なくされ、昭和四四年二月一八日実施された面接試験を遂に受験できず、受験を放棄せざるを得なかつた。のみならず、前記の如く後遺症により再び右の試験に合格することは絶望的であるため、管理職への途はとざされた。そのうえ、平常勤務に復職してからも、体育、遠足・水泳・臨海林間学校等の実施指導に参加できず、他の同僚に負担をかけ、原告の心労は大きい。果して退職金が加算される退職勧奨の六〇才まで円満に勤務を継続できるかどうか極めて難かしい状況下にある。

原告は、その後も季節や気候の変り目等に手足がしびれ、頭痛が激しく、物事を注意深く長時間にわたつて考えたり、一定の時間同一姿勢でいることが出来ない等のため、勤務先での業務も充分果たせず苦慮している。

原告は体育等の授業が出来ないので、昭和四六年三月まではその授業は時間講師に担当して貰つていたが、同年四月以降は都が時間講師を認めないためやむを得ず教頭等に担当して貰つており、他の教師と比べ著しく担当時間が少く(甲第二三号証)、このように教頭や他の教師等に対するしわよせ・迷惑を考えると、原告としては誠に心苦しい状況におかれている。

更に前記後遺症が原因で、本件事故による直腸障害(便秘)が、退院後一層悪化し快復の見込は極めて薄い。常時便秘薬を使用している。この薬はすべて病院から交付されているため、この通院も平均余命一九年もあることを十分斟酌されるべきである。

また原告の長女君子(昭和二二年生)の結婚を約一カ月延期し、結婚しても、右延期等が原因となつて、昭和四五年に離婚せざるを得なくなつた。

従つて原告の本件事故による精神的損害を慰藉すべき額は前記諸事情にかんがみ金一〇〇万円をもつて相当とする。但し後遺症七級の自賠責保険金一二五万は原告が受領ずみであるので、これを除いて金一〇〇万円を請求する。

7  逸失利益 金七六九万六〇〇〇円

原告は昭和十二年四月以降教師となつている。前記後遺症により、次のとおり、将来の得べかりし利益を喪失した。

(事故時) 五一歳

(稼働可能年数) 一一年

(労働能力低下の存すべき期間) 一一年

(年間収益) 金一六〇万円

(労働能力喪失率) 五六%

(年五分の中間利息控除) ホフマン複式(年別)計算による。

160万×56/100×8.59=769万6000円

8  弁護士費用 金七八万円

以上の損害の一割以下で手数料・謝金として出捐する旨の約定をせざるを得なかつた。

(四)  (結論)

よつて以上損害金一〇〇五万〇九五五円および内金九二七万〇九五五円(弁護士費用を控除して)につき訴状送達の翌日たる昭和四六年一月一七日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(五)  (予備的請求)

即ち逸失利益につき右主張が認められないときは予備的に次のとおり請求する。

(一) 休業損害 金二一万一二二〇円

これは原告が本件事故で昭和四三年一〇月二六日以降翌四四年七月一九日までの間、通算一八〇日間出勤不可能となり、この内五八日は年次有給休暇で賄つたけれども、このために減額された諸手当の合計右のとおりの金額となつた。(甲第一九号証)。

(二) 過失管理諸手当 金二二七万五三五五円

前記の如く、原告は昭和四三年度の公立小学校教頭候補試験の筆記試験に合格し、従来からの実情からみて面接試験も合格し得る見とおしであつたところ、本件事故のため、それが不可能となつた。しかし、もしも本件事故がなかつたならば、昭和四四年度より管理職(教頭)となり管理職手当(基本給の一〇%、昭和四五年以降一五%)が支給され、これは管理職が勧奨退職となる六〇才まで受けられた筈であつた。この間の得べかりし管理職手当は別紙第一表のとおり合計金二二七万五三五五円となる。なお昭和四七年以降の基本給のベースアツプを確実な金一万円として計算した。(昇給分を含まない)。

(三) 逸失特昇額 金二九万三一八八円

原告のような教育公務員の場合は、通常の勤務をした者であれば三年ないし四年に一度の周期で一号俸(金一四〇〇円)基本給が昇給する特別昇給制度があり、慣行的に実施されている。原告が、この特別昇給を受けた最後は昭和四三年度であるから、昭和五六年の勧奨退職までは少くとも昭和四七年と昭和五一年との二回は見込まれていた。しかるに本件事故による欠勤、勤務状況、その後の身体障害下における勤務状況(他の教師は週三〇ないし三二時間担当しているが、原告は二三時間しか担当できない等)においては、勧奨退職まで、この適用を受けることが不可能になつた。この金額をホフマン方式に従つて中間利息を控除して算出すれば別紙第二表のとおり合計金二九万三一八八円となる。

(四) 六〇才後の逸失利益 金三五五万九三七四円

原告は万難を排して勧奨退職となる六〇才まで勤務を続ける予定であるけれども、身体障害等からみて、六〇才後の教師として勤務することは不可能である。教師を退職し、他に再就職ということも考えられない。仮に何らかの仕事に就いたとしても、原告の如き身体障害者が再就職して得られる収入は徴々たるものであろう。ところで政府の自動車損害賠償保障事業損害査定基準によると、原告は本件事故当時五一才であつたから、就労可能年数は一二年であり、六三才まで就労可能である。

仮に通常の教師として勤続し六一才になつた時の収入見込は月額金二〇万五〇〇〇円、賞与年五カ月分を含め、年収金三〇七万五〇〇〇円である。そうすると六一才から六三才までの三年間の逸失利益は次のとおり合計金三五五万九三七四円と算出される。

(期間) 三年

(年収) 金三〇七万五〇〇〇円

(労働能力喪失率) 五六%

(毎年の逸失額) 金一七二万二〇〇〇円

(年五分の中間利息の控除) ホフマン式計算

<1>  1722000円×0.714=1229508円

<2>  1722000円×0.687=1183014円

<3>  1722000円×0.666=1146852円

従つて仮に教諭という職業上の性格から、現職にあるかぎりは五六%相当の損害が生じないにしても、六〇才で退職を余儀なくされ、その後の収入につき右のとおり金三五五万九三七四円を予備的に請求する。

(五) 慰藉料 金四〇〇万円

本位的請求として慰藉料を金一〇〇万円請求しているけれども、仮に労働能力低下による逸失利益が認められないときには、これを補完する意味で金四〇〇万円の慰藉料を予備的に請求する。即ち慰藉料のように評定すべき損害においては、額の主張は裁判所を拘束せず、総額の内部においては、慰藉料の補完性を一杯に利用して確定してもさしつかえないとされているけれども、念のために主張しておくものである。

(六) (抗弁に対する原告の答弁)

(一) 過失相殺の抗弁は否認。

(二) 弁済の抗弁は認める。

四  被告側の答弁

(一)  請求原因第(一)項中1 2 3 4 5の各事実、原告が本件事故で負傷した事実は、いずれも認めるけれども、その余は不知。

(二)  同第(二)項中、(1)(2)の各事実は認め、(3)は争う。即ち被告清水に前方不注視の過失があつたことは否定し得ないけれども、被告車側のみの過失により本件事故が発生したものではない。なお現在も賠償責任が被告らにあるとの点は争う。

(三)  同第(三)項の事実は、いずれも不知。

但し、原告が自賠責保険から金一二五万円を受領ずみであることは認める。

原告主張の損害に対し、次のとおり反論する。

1  付添費について

医学的に付添の必要がなければ付添費は認められない。

また、家族の付添につき一日金二〇〇〇円の割合での請求は高きに失する。

そもそも、妻がその夫の看病をするのは、夫婦の情の発露として当然の行為であり、これを金額に換算すること自体に疑問の存するところであるが、たとえこれを認めるとしても、職業的付添婦の賃金より高額な一日金二〇〇〇円の請求は高きに失する。

せいぜい一日金一〇〇〇円の割合にとどまるべきである。

2  被告らとの連絡費について

これを被告らに請求するのは妥当ではない。

3  代車料について

原告車は、原告が保有し、使用しているいわゆるマイカーの筈である。原告の主張によれば、昭和四三年一一月七日一応退院後も傷病の併発、再発を繰り返し、吐き気、目まい、全身のしびれに四六時中悩まされ通院治療を続けていた期間に代車が必要であつたというのは理解に苦しむ。

又、仮に現実に車を借りたのだとしても、営業用でないマイカーについての使用料まで被告らに請求するのは不合理である。また被告会社が、その使用を承諾したことはない。

4  原告車の評価額について

原告の請求するのは、いわゆる「格落ち損」と呼ばれているものである。しかしながら、右損害は、事故車をそのまゝ使用している限り顕在化しないものであり、この請求は失当である。

5  原告車の修理代は高きにすぎて不相当である。

実況見分調書(甲五号証)によると、原告車の修理費は五万円と見積られている。

6  慰藉料について

原告は、自賠責保険金一二五万円を受領したうえ、更に、一〇〇万円の慰藉料を請求する。

人の受ける苦痛は、その当人にとつては金銭にかえ難いものであることは理解できるが、損害賠償請求には自から限度があり、慰藉料額は定額化されている。

原告の請求は、この定額化されたものに比較し、あまりに高きに失するものである。

原告は、事故により休業したが、復職後はほとんど支障なく教べんをとつている。また、通勤には自動車を運転して通勤している。

7  教頭試験について

原告は本件事故によつて教頭になりえなかつたと主張するが、教頭候補試験の面接試験は受験者全員が合格するという訳ではなく、昭和四三年は五二%、同四四年は六二%の合格率であつたもので、原告が本件事故に遭遇しなかつたとしても、教頭候補になりえたとの蓋然性はない。

8  労働力低下による逸失利益について

原告は後遺症によつて従来の労働能力が五六%減じたと主張し、一一年間の逸失利益を請求する。

しかし、現在原告は久留米市立第四小学校の理科専科担当教員として就業しており、給与も同僚教員と同様の支給額を受けているものである。

従つて原告に後遺症が存したとしても、原告の教員たる職業の性格上、労働能力には何らの影響はないとみるべきである。また仮に、労働能力に多少の影響があるとしても、それによつて具体的に何らの減収も生じていないのであるから、結局原告の請求は失当であると思料する。(減収のない場合には賠償の必要はないとの最判昭和四二年一一月一〇日民集二一巻九号二三五二頁参照)。

仮に、原告に労働低下による抽象的損害を認めうるとしても、前記の事情より考えて、その割合を五六%の高率で認めることは妥当でないと思料する。

9  弁護士費用について

原告の請求は高きに失する。

仮に、原告がその代理人に請求金額の支払を約したとしても、被告に請求できるのはその金額ではなく、事件の難易その他の事情を考慮して妥当とされる範囲に限定されるべきである。

(四)  請求原因第(四)項は争う。

(五)  同第(五)項(予備的請求)も争う。

五  (抗弁)

(一)  過失相殺

本件事故発生地は、東久留米駅方面から来た道路幅員約五・八米の道路がこれにほぼY字型に接する幅員七・五米のひばりが丘団地方面からの道路と合流して幅員約八・二米の中原小学校方面へ向う道路とあたる交差点である。

被告清水は、被告車を時速約四〇キロで、先行車に追従して運転し東久留米駅方面から西原小学校方面へ向つて、進行中、本件事故発生地附近にさしかかつた。

たまたま、道路左側には、清掃車が停止してゴミ集めの最中であつたので、被告車の先行車はこれを避けるため道路右側へ寄つて走行して行つたので、被告車もこれに続き、停止中の清掃車を追抜いた途端、被告車の右前部が対向進行して来た原告車を発見、直ちに急ブレーキをかけたが間にあわず右前部と衝突したものである。

被告清水は、先行車に追従していたため、原告車が通行して来るのが見えなかつたのである。

原告としては、被告車の前を走行していた車両を認めており、同車のみならず後続車において、前記駐車車両を回避するため道路中央を越えて対向して来る車両の存在を予見し得た筈であり、当然減速徐行し、且つ警笛を鳴らすなど事故発生を防止すべき注意義務があつたものと考えられる。

右の状況からすれば、被告清水に前方の注意に欠けた過失のあつたことは否定しえないが、一方原告にも前方不注意、避譲義務違反の過失があり、損害額の確定につきこの点考慮されたい。

(二)  弁済 合計金二一九万四五四〇円

(1)  被告会社の支払つた治療費(本訴請求外) 金四四万四五四〇円

(2)  自賠責保険金

(1) 金五〇万円

(本訴請求外治療費充当)

(2) 金一二五万円

(本訴請求分に充当)

第四 理由

一  (事故の発生)

請求原因第(一)項1 2 3 4 5の各事業、原告が本件事故で負傷した事実は、いずれも当事者間に争いがない。6(傷害の部位程度)、7(後遺症)の各事実は、〔証拠略〕により認め得る。

二  (責任原因、過失相殺)

(一)  被告会社が被告車の運行供用者であることは当事者間に争いがない。

(二)  被告会社が被告清水を使用し、被告清水が被告会社の業務の執行として運転中本件事故が発生したことも当事者間に争いがない。

(三)  そこで過失につき検討する。

〔証拠略〕によれば、次の事実を認めることができる。即ち本件事故発生地は東久留米駅方面からの道路(幅員約五、八米)とひばりが丘団地方面からの道路(幅員約七、四米)と西原小学校方面からの道路(幅員約八、二米)とがY字型に交わる平担な舗装された交差点である。

被告清水は、時速四〇粁位で被告車を運転して、先行車(プリンス・クリツパー)に八米位の車間距離をおいて東久留米駅方面から西原小学校方面へ走行して本件事故発生地にさしかかつた。たまたま、道路の左側に駐車中の清掃車があつたので、被告車の先行車は、この右側方を通過し、直ちに左にハンドルを切つて、西原小学校方面から東久留米駅方面へ時速四〇粁位で直進走行して来た原告車との衝突を避け得た。しかし被告清水は先行車との車間距離を十分とらず、対向車の有無と安全とを確認しないまま先行車に追従し、駐車中の清掃車の右側を走行せしめた過失により、対向して来た原告車を一〇米足らず先に発見し直ちに急ブレーキをかけたけれども、間にあわず被告車の右前部と原告車の右前部とが衝突し、本件事故が発生した。この経過の骨子は別紙見取図のとおりである。

右認定事実によれば、被告清水の安全運転義務を怠つた過失により本件事故が惹起されたものというべきである。

(四)  なお、被告は「原告にも前方不注意、避譲義務違反の過失があつた」旨主張するけれども、損害賠償額の算定にあたり斟酌しなければならないような過失が、対向車たる被告車と原告車との相互間における本件事故では、原告側に存在したことを、認めるに足りる証拠はない。従つて過失相殺の抗弁は失当として採用しない。

(五)  従つて、被告会社は自賠法第三条、民法七一五条一項により、被告清水は民法七〇九条により、連帯して原告に対し後記認定の損害を賠償する責任がある。

三  (損害)

(一)  治療費残額 金四万〇三七〇円

〔証拠略〕によれば、被告側で既払の治療費のほかに、昭和四四年五月二七日以降昭和四五年八月一九日までの治療費として原告が佐々病院に支払つたものが、右金額になることが認められる。

(二)  付添費 金九万九五二二円

〔証拠略〕によれば、次の事実を認め得る。即ち原告が第二回目に入院した一〇一日間の内、四日間は家政婦が付添看護に当つた。この費用は金五五二二円であつた。残りの内九四日間は主婦たる原告の妻が付添つた。この分については一日当り金一〇〇〇円宛計金九万四〇〇〇円を認めるのを相当とする。

(三)  入院雑費 金三万三九〇〇円

前認定のとおり原告は本件事故による負傷のため、前後二回にわたり計一一三日間入院治療した。従つて、これに伴う諸雑費としては、その病状からみて一日金三〇〇円宛の計金三万三九〇〇円と推認するのを相当とする。

(四)  通院交通費・連絡費 金九七〇〇円

前認定のとおり原告は本件事故による負傷のため、前後二期にわたり計九七日の通院治療を余儀なくされた。従つて、これに伴う交通費等として必ずしも明確な立証はないけれども、諸々の出費が伴うことも、〔証拠略〕によつて推認できるので、一日金一〇〇円宛の計金九七〇〇と推認するのを相当とする。

(五)  原告車の損害 金二十二万八六三〇円

〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。即ち原告車の修理代として金一五万八六三〇円を必要とした。原告車の修理期間中、原告が退院した後の時期に自動車の無い不便から、被告会社の承諾を得て訴外野口商事自動車整備工場から一日金二〇〇〇円の約定で代車を借り二〇日間利用した。従つてこの費用は金四万円である。また原告車が修理により復元されたとしても、その修理部位がエンヂンルームに相当の比重を占めていたことからみて、必ずしも断定し切る証拠はないけれども、修復後の評価損として金三万円と推認するのを相当とする。

(六)  逸失利益に代る慰藉料 金一五〇万円

〔証拠略〕を総合すれば、次の事実が認められる。

即ち、原告は東京府立の青梅農林学校を卒業してから、いわゆる代用教員として勤務するかたわら検定試験に合格し訓導・教諭となり前後二回にわたり兵役に服したほかは教師として精励して現在に至つている。一〇年位前から東久留米市立第四小学校の教諭として健康で教べんに励んでいた。年令も五〇才になろうというので、教頭候補試験を受け、三回目の昭和四三年度の筆記試験に合格した。それに次いで昭和四四年二月一八日実施される面接試験にそなえて準備を重ねていたところ、昭和四三年一〇月二六日本件事故で負傷入通院およびこれに伴う欠勤を余儀なくされた。しかし幸い経過も良かつたので同年一一月六日退院し、一一月一八日から通院のかたわら出勤を開始した。この様な状態が続いたところ、昭和四四年二月一三日頃、学校の全体作業があり、原告が責任者となつて石や岩を操つたりしたこともあつて、左肩あたりが再び痛み始め、同年二月一五日から再入院を余儀なくされた。遂に面接試験を放棄せざるを得なかつた。その後、前認定の後遺症のため、日常の授業も不十分となり、遂に学級担任も外ずされ、現在は理科のみの担任をしているけれども、時間数が同僚より大幅に少くしてもらつて昇給延伸もなく、一応、まがりなりにも昇給しており、授業に耐えている。このような状態からみて、将来、教頭候補試験を受けることは絶望的となつている。のみなず、勧奨退職年令たる六〇才までも勤続できるか否かむづかしい状態でもある。

なお昭和四三、四四年度における教頭候補試験の内、筆記試験に合格した者の内、面接試験までに合格し教頭に発令される者の比率はほぼ五〇%から六〇%位であつた。

もしも教頭になつたとするならば、管理職手当として一〇%から一五%の割増収入が六〇才まで続くと認められる。仮に平職員で終つたとしても健康体ならば六三才まで勤続可能であるところ、果して六〇才までも勤続可能か否かも、あやぶまれている。

以上の認定事実によれば、後遺症に伴う逸失利益を算出できる適確な証拠は不十分といわざるを得ないけれども、他面において本件事故のため教頭への途が断たれているし、同僚と同じ給与を得てはいるものの、授業時間も大幅に少なくしてもらつている実情から相当な配慮をせざるを得ない実情であつてみれば、将来にわたる面で、それ相当の不確定要素も加味し、控え目にみて、逸失利益に代わる慰藉料として金一五〇万円と認めるのを相当とする。

(七)  負傷に伴う慰藉料 金二〇五万円

前認定の諸事実によれば、原告の精神的苦痛を慰藉すべき損害として、入通院の治療中の分として金八〇万円、後遺症(七級)分として金一二五万円と認めるのを相当とする。

(八)  損害の填補 金一二五万円

原告は自賠責保険より後遺症補償として金一二五万円を受領していることは当事者間に争いがない。従つて、これは以上認定の損害に充当されるべきものと認める。なお、このほかに被告側で自賠責保険金を含めて治療費として合計金九四万四五四〇円を支払つているけれども、過失相殺を認め難い以上、本訴請求外であるため、差引計算に入れない。

(九)  弁護士費用 金三〇万円

以上のとおり原告は被告らに対し損害賠償請求権を有するところ、被告らは任意弁済に応じないため、原告は原告訴訟代理人に本訴の提起と追行とを委任し、弁護士費用として金七八万を支払う旨の約束をしたことが、〔証拠略〕によつて認め得る。しかし、認容されるべき額と訴訟の全経過からみて被告側に負担せしめる額としては金三〇万円をもつて相当と認める。

四  (結論)

よつて被告らは連帯して原告に対し金三〇一万二一二二円および内金二七一万二一二二円(弁護士費用を除く)につき訴状送達の翌日たる昭和四七年一月一七日(この点は当裁判所に顕著である)以降右支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべく、これの履行を求める限度で本訴請求を認容し、その余を失当として棄却し、民事訴訟法九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 龍前三郎)

(別紙第1計算表)

<省略>

第2計算表

<省略>

見取図

<省略>

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